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トゥバ奮闘旅行記 5 チャガタイ湖2

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チャガタイ湖ホーメイ強化合宿~千尋の谷底へ その2

そんなこんなで、何度も谷底へ転落しつつ、強化合宿はすすんでいった。

ホーメイの中にもいろいろな声の種類がある。喉を締めて唄うホーメイ、口蓋(歯の裏あたり)を舌で塞ぐことによって口笛のような高い音を際立たせるスグット、仮声帯を震わせて低音の響きを出すカルグラ、などなど。私はホーメイもスグットもできないが、カルグラだけできた。朝早起きして平原に向かって思いっきりやってみた。確かに体の中から不思議な響きが生まれる。そうとうに気持ちが良かった。

が、喜ぶのもつかのま、2日目には、このアンサンブルでホーメイコンテストに出るらしいことがわかり、愕然とする。

先生方の強引さにも慣れてきたつもりだったが、これは驚いた。ホーメイコンテストって、確か、クズルで3連ちゃんで観たコンサートに出てた凄い人たちがこぞって出るし、かなりレベル高いんだよね…。でもまあ、ここでは何でもありなのだ。郷に入りては郷に従え。経験者も結構いるし、先生も一緒にやってくれるんなら、きっと何とかなるんだろう。とりあえず、布団かぶってiPhoneで録った稽古の録音を聞きながら、必死で歌詞を覚える。

そして、3日目。
歌詞や旋律に少し耳が慣れ、あらためてヴァレリーさんやウッペイさんの歌を聞く余裕がでてきた。

この3曲メドレーは、実はとてもいい。

1.ウビュル・ハデュップ(サグールは風が吹いているだろう)
(南のサグール地方の民謡。故郷で待つ恋人を思うたおやかな歌)

2.カラ・デュルヤ
(民族の離散の悲しみを、黒い鶴の群れに例えて唄った哀切で美しい歌)

3.トゥバ・チュルットゥ
(ヴァレリーさん作曲のリズミカルな歌)

で、3曲のつなぎに不思議なお囃子のような呪文のことばが入る。

カラ・デュルヤは、先生2人が唄うのだが、特にヴァレリーさんのカラ・デュルヤは素晴らしい。声量豊かなカルグラで節回しが独特。まったく感傷的ではなく、むしろ力強いのに、哀愁が漂う。
さらに、ウッペイさんオリジナルの朗々とした歌に、楽器演奏と女性4人コーラスをつける、という練習もやった。コーラスは“ああ神様、お助けを”という意味なのだそうだ。ウッペイさんのよく通る声が素晴らしく、一緒にコーラスをやっていると気持ちがのびのびする。この歌は故郷バイタイガの自然を歌っているとのこと。初日に、ホーメイは湖の水の音や自然の音から学ぶといい、と言われたが、まさにそうなのだと思った。

ここの歌の構成は、きれいなたおやかな歌のあとに、グロテスクな声でマイナーな旋律が現れるものをよく聞く。この対比はなんだろう。きれいなだけではすまされないよ、とでもいうような感じで、どきっとする。
シェークスピアのマクベスに「きれいはきたない、きたないはきれい(Fair is foul, and foul is fair)」という有名なセリフがある。人間の本質をついた深淵なものだが、トゥバの人たちは、そうした真理を自然から当たり前に学び、調和して生きているのかもしれない。日本も自然とともに生きてきたはずなんだけどね。どこで間違ったのか。ここの人たちは、自然、特に動物の声に特別な感性を持っているように思える。日本よりも、動物とのコミュニケーションをとるのに切実な必然性があったのは間違いないだろう。

と、まあ、大変な合宿だったけれど、ごはんもおいしく(ちゃんと可愛いコックが来ていた)、馬に乗ったり、バーニャという本物のサウナに入ったり、と湖畔のバカンスを存分に楽しんだ。

続く…

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